大分県で真珠の養殖をしていることをご存知ですか?つくられている量は決して多くありませんが、その品質は高く、全国の品評会では毎年のように大分の真珠が表彰されています。
大分県佐伯市で真珠の養殖を行い、加工から販売まで一貫して自社で行っているオーハタパール。
今回、TOKIWA プリーマで、アクセサリー作家COQUETTE(コケット)とコラボレーションしているオーハタパールには数多くの受賞歴があります。「全国真珠品評会」浜揚げ珠の部で、最高賞である農林水産大臣賞を2度も受賞。その美しさ、輝きはプロの世界でも認められています。
売れればいいということはやらない。100年続く美しさを追求しよう
そんなに美しい真珠を作ることができるのであれば、もっと真珠生産が盛んになってもいいものですが、どうして少ないのでしょう?
今回、大分県佐伯市のオーハタパールの本社におじゃまして、代表取締役社長である大畠美津子社長にお話をうかがいました。オーハタパールをはじめとする大分の真珠の評価の高さは、恵まれた環境だけでなく、品質に特化した戦略とたゆまぬ努力により生まれたのだということがよくわかりました。
大畠社長の特に印象的な言葉があります。
「ある時から、売れればいいということはやらないと決めました。この土地だから、私たちだからこそできる真珠をつくろうと。その決意が100年続く美しさの真珠づくりのはじまりです。」
決意の裏に何があったのか。そして、100年続く美しさの真珠とは?今回は、大分での真珠作りの物語を紐解きます。
オーハタパールのこれまで
大分での真珠養殖の歴史は昭和20年代にはじまりました。
真珠は戦後日本の一大輸出産業の一つでした。三重県の大手真珠養殖会社は日本全国で、真珠を養殖できる場所を探し、進出していきました。その中の一つが、ここ大分県佐伯市です。
真珠養殖を可能にする3つの環境要因
真珠はどこでも作れるわけではありません。3つの条件が満たされていることが必要です。
1つ目。リアス式海岸で湾があるところ。波静かで、海岸から短い距離で水深が深くなることから、効率的な真珠養殖が可能になります。
2つ目は、良質なプランクトンがいること。淡水と海水が混じり合う汽水(きすい)に生きるプランクトンが真珠を作りだすアコヤ貝の餌となり、安定した成長を促進します。
そして3つ目。大事な要因が水温です。夏場も水温がそう高くなく、冬場は寒くなりすぎない。夏に水温が高いと貝がバテてしまい、水温が10度以下になると活性しません。
この3つの要因を叶えた貴重な場所として大分県は選ばれ、真珠養殖がはじまったのです。その後、三重県の会社は撤退しますが、従業員だったオーハタパールの前社長が自ら会社を立ち上げて、大分での真珠養殖を引き継いでいきました。
オーハタパールが品質を重視するようになった理由
今では高品質で名を馳せるオーハタパールですが、実はずっと品質を売りにしてきたわけではなかったと言います。きっかけは、1990年代に起こった一大パールブームです。
「皇室のウェディングの影響で、大粒パールが大流行したんです。オーハタパールでもニーズに答えて、8ミリという大粒真珠を作ったんです。」
その後パールブーム は去り、赤変病というアコヤ貝が斃死する病気が発生し、数々の真珠業社が廃業していきました。
「どうやって生き延びるかを考えました。その時に決めたんです。もう妥協するのはやめよう。この土地だからできる、ハイクオリティなパールを作ろう。」
その時に生まれた決意が、「売れればいいということはやらない」ということです。
高品質な真珠とはどうやってつくられるのか
いかに品質を追求したのかを説明するために、真珠がどうやってできるかを紹介しなければなりません。
養殖真珠は、貝に「核」と呼ばれる貝を丸く削ったものと、貝殻成分を分泌する外套膜(がいとうまく)を入れて、「核」のまわりに真珠層を形成させることでつくられます。
真珠をつくる気の長い道のり
(1)貝を育てる
稚貝・母貝と呼ばれるアコヤ貝を2年から3年かけて養殖します。
(2)抑制 核入れの準備
十分な大きさになったら「核入れ」の準備である「抑制」という作業を行います。
これは人間の睡眠と同じ状態にするものです。
(3)「核入れ」|春 5月頃
「核」と呼ばれる淡水産の貝殻を丸くしたものと、「ピース」と呼ばれる肉片をアコヤ貝の生殖巣に挿入する手術をします。
(4)休息と成長|夏〜秋
1ヶ月ほど波静かな湾内で体力を回復し、その後、沖の筏に移されます。貝の表面の付着物を落とす作業や寄生虫を駆除する作業を続け、丁寧にお世話をします。
(5)「浜揚げ」真珠の取り出し | 秋〜冬
真珠を貝から取り出します。
(6)「選別」と「加工」
様々な形、大きさの真珠を分類し、その上で真珠が本来潜在的に持っている美しさを引き出す加工をします。
長期間じっくり育てた真珠をつくる
オーハタパールがまずこだわったのは、「越物」と呼ばれる養殖期間の長い真珠を作るということ。
『核入れ』してからたった4ヶ月でも真珠を作ることはできます。
短い期間なので貝の死亡率も減り手入れも少なくてすむので、コストは抑えられます。
「それでも私たちは違う選択をしました。自分たちが本当に美しいと思える真珠。そして、この土地、大分だから作れる真珠をつくろうって。世の中なにが起こるかわからないじゃないですか。お客様が求める真珠だって時代によって変わることを、パールブームで実感しました。なにが吉と出るか凶と出るかわからない。だったら、私たちが信じることをしたい。それならば失敗したって、後悔はしないでしょ。」
大分の真珠のポテンシャル
高品質な真珠をつくろうと取り組んだ時、大分という立地が奇跡的なほど「ハイクオリティ真珠」をつくるのに適していることがわかります。
重要なのは水温です。アコヤ貝は10度以下の低水温が続くと死んでしまいます。オーハタパールの漁場の海水温は、冬場でも13度程度までしか下がらないので冬場も貝を海に入れておけます。対して、冬場に海水温が下がるエリアでは、冬を越して次の年まで貝を海中に置いておくことができず水温の下がる前に取り出す「当年物」と呼ばれる真珠になります。
「でも、冬を越して長期間に渡って形成された真珠層だからこその、美しさってあるんですよね。私たちは『しっかり巻いた真珠』と表現しているんですけど、層が厚いからこそ放つ輝きがあるんです。」
改めて見つめると真珠の輝きに、驚いてしまいました。光の角度が変わるたびに揺れるオーロラのよう。真珠を『虹色の輝き』と表現する、その深みを感じます。
100年経っても、貝から取り出した瞬間みたいに、美しい真珠をつくる
『巻きのいい真珠』は美しさが続きやすいという特徴もあるそうです。
「真珠は生き物が生み出したもので、酸に弱いんです。私は、取り出した瞬間の真珠が一番美しいと思ってます。真珠は経年変化があると言われていますが、巻きの良い真珠だとその美しさは維持しやすいと思います。」
大畠社長は、手にした真珠を愛おしそうに見つめながら語ってくれました。
「お客様に言われて本当にうれしいのは、『オーハタさんの真珠は、もう何十年も前に買ったのに、ずっと買った時のように美しい』って言ってもらうこと。100年経っても、貝から取り出した瞬間みたいに、美しい真珠をつくる。これが、私の決意なんです。」
何度もぶつかってきた壁を超えて届けたいもの
社長として、真珠の生産や加工の現場にも行きながら、トキハ本店の店舗にも立ち直接真珠の魅力をお客様に語っている大畠さん。オーハタパールの真珠作りの中心には、いつも大畠社長がいました。
その真珠とともに歩んできた人生には、パールブーム後の販売不振以外にも何度も困難がありました。
工場排水で海が汚れ真珠が取れなくなった時期。感染症の流行で2年に渡って貝が全滅したということもありました。
そして現在環境破壊が大きな課題になっています。
「地球温暖化が進んで海水温が上がると夏場の高水温に貝が耐えることができなくなってしまいます。この大分の海で、真珠が作れなくなるかもしれない。海って、みんなの暮らしが流れ着く、最終的な場所なんですよね。筏にたくさんゴミが流れつくこともある。また、海の水が汚れたら真珠が取れなくなることだってある。」
真珠は、アコヤ貝が生み出す「生きもの」だということがよくわかります。
オーハタパールの真珠の美しさは、私たちの暮らしの先にある。
お話を聞いて、この真珠を誇りたい気持ちがたくさん湧いてきました。大分の真珠が、何度だって、この土地のすばらしさを教えてくれるから。
自分も、海も、真珠も、輝き続ける未来を願って、大畠社長とともに真珠をお届けしたいと思います。