洋菓子工房 アンティーク|山あいの小さな洋菓子店がたった3年で人気店に。アンティークの変化の理由とは。

洋菓子工房 アンティーク|山あいの小さな洋菓子店がたった3年で人気店に。アンティークの変化の理由とは。

大分県豊後大野市の木々に囲まれた田舎道を進むと、唐突に現れる小さな店、「森のガルテンとやさしいお菓子 洋菓子工房 アンティーク」。


 

お店の前に広がる田んぼからとれた自家栽培のお米を製粉した米粉を使ったお菓子たち。しいたけやゴボウ、ほうれん草など普段お菓子に使われることの少ない素材を取り入れ、しかし健康志向のストイックさはなく、華やかで心躍るお菓子を提案しています。


オープンしてから約15年間は「そうお客様もこず、鳴かず飛ばずだった」と語るシェフの甲斐公洋さん。新商品を次々に開発し、3年前に店舗をリニューアルオープン。それまでは甲斐シェフとお母さんのお二人で運営していましたが、今では10人のスタッフを雇うまでに成長しました。


「この場所でこれだけ人が来ているのは、ほんと夢みたいなこと。」


 

甲斐シェフは語ります。「この場所でこれだけ人が来ているのは、ほんと夢みたいなことです。間違ってなかったんだなと。田舎で何かをしようとしている人の先駆けになれたらいいなと感じますね。」


かつては、地元緒方町のお客様がほとんどでしたが、今では市外からのお客様も増え、市内と市外のお客様は半々ほどに。休日には用意している駐車場が埋まり、次々にお客様が訪れます。

変化が緩やかになりがちな山奥の田舎町で起こった、たった3年間での変化。何があったのか、「森のガルテンとやさしいお菓子 洋菓子工房 アンティーク」におじゃまし、甲斐シェフと、仕掛け人である天野由紀さんにお話を伺いました。


アンティークの特徴。米粉と地元の素材を使ったやさしいお菓子。


 

小さな店の扉を開くと、色とりどりのお菓子が並びます。ガラスのショーウィンドーに並ぶケーキなどの生菓子。看板商品は、低農薬・有機肥料で育てた自家産米「ひのひかり」の米粉と久住高原育ちの平飼いにわとりの卵を使った「米粉のロールケーキ」です。


焼き菓子コーナーには、他にない独自のお菓子たちも並びます。


 

ごぼう・ほうれん草・れんこんといった野菜のパウダーを使用した「米粉のベジタルト」

自家産米の米粉と乾椎茸(なば)を使用した「ナヴァショコラ」

地元酒蔵の酒粕を使った「酒蔵のチーズケーキ」

ずらりと軽トラが並ぶことも!人気が出てからも地元で愛され続ける。


取材に伺ったこの日は、平日にも関わらず次々にお客様が訪れていました。お土産用にまとめ買いする方、自分用にケーキを1つ買う方、はじめて訪れたと1種類ずつ買い集める方。いつもギフト用に購入すると言う方は「大分らしいのに田舎っぽくなくて他にないですよね。帰省してた娘に持たせるんです。」とうれしそうに話されていました。


甲斐シェフはこう語ります。「市外からのお客様も増えましたが、地元の方々も気軽に来てくれます。普通のお菓子屋さんって男性が入りにくいって言いますよね。うちは男性が農作業の合間に買いに来てくれたりする。駐車場に軽トラがズラーっと並んでいたりして。軽トラ率で言うと、全国トップレベルなんじゃないかな。」


『もったいないをなくす』というアンティークのはじまり。

 

甲斐シェフは、老舗洋菓子店やホテルレストランのスイーツ担当として修行したのち、実家の倉庫を改装し旧店舗である洋菓子工房アンティークをオープンしました。19年前のことです。

 

「当時からコンセプトとしてあったのは、『もったいないをなくす』ということですね。古きもの、今ここにあるものを大切に活用する。その方法が自分にとってはお菓子づくりでした。」


甲斐シェフのお父さんは米農家。ならば家にある米を製粉し、米粉を使ったお菓子を作ってみよう。アンティークの『米粉を使ったお菓子』という特徴も、あるものを活かすという精神から始まっていたのです。

 

「でも、15年間は鳴かず飛ばずでしたね。どうやってこんな田舎に人を集めようか。自分ができることは、自分が本当に美味しいと思うお菓子を、丁寧に作り続けること。そう思って日々手を動かしていました。」


店を変える仕掛け人。天野さんとの出会い。

 

そんな時に出会ったのが、天野さんでした。豊後大野市の出身で、野菜ソムリエの資格をもち、大分県6次産業化プランナーとしても活躍しています。

店舗リニューアルを考えていた時、「商品開発のお手伝いをしてもらったのがきっかけです。元々あるレシピをベースにしたのですが、天野のアイデアで野菜パウダーを加え、パッケージを作り込んだことで、見た目も存在もおもしろいものになりました。」

そこから天野さんが情報発信や新商品開発などの運営に携わることになります。

そして冒頭でも紹介した、地元の素材を大胆に活用したオリジナルの洋菓子が次々に開発され評判になっていきました。


絶対に無理だろうという食材を組み合わせ、お菓子の枠を超える楽しさ。

 

「彼女に声をかけ、新しいチャレンジをしたのは生き残るためだったという部分もあります。コンビニのスイーツもレベルアップしている。値段では全国展開している大手スイーツ店には敵わない。そんな中では、変わったことをしないといけないですよね。」

 

アンティークで甲斐シェフと天野さんが目指したのは、『地域の素材を生かしきること』でした。天野さんは次々に新しい素材を持ち込みます。顔を知っている生産者がつくる野菜や果物、地元で作られた野菜のパウダー。アンティークの元々のコンセプトが「もったいないをなくす」のであれば、徹底して地元の素材をお菓子に取り入れ、それを物語としてみせていくことを提案したのです。


「最初は抵抗がありましたけどね。今では、作ってて楽しい。でないと続かなかったと思います。絶対に無理だろうという食材をあえてねじ込んで、食べたことがないものを作る。地元の素材の活かし方、そしてお菓子のあり方、両方の面で枠を超えていく。それで誰かが喜んでくれるとなれば、やりがいを感じますよね。」

 

この町の未来のためにも、雇用を創出したい。


これまでも甲斐シェフは1人で商品開発を続けてきましたが、天野さんが加わることで、視点が増えます。「天野が加わって初めて、見た目、パッケージも作り込むということを始めました。」

新商品を開発し、SNSやWEBなどを活用した情報発信を続けるうちに、お客様はどんどん増えていきました。それに伴い従業員も増えていきます。


雇用を創出すること。それは、甲斐シェフと天野さんの願いでもありました。年々人口が減ることを肌で感じる。「この町の未来のため自分たちにできることをしたい」という想いがつのっていました。


バースデーケーキの注文がなくなることで、人がいなくなったことに気づく。

「若い方が外に出ていく。小さい頃から毎年、バースデーケーキの注文をしてくれている子の誕生日に、ある年から注文がこなくなる。それで、この町を出て行ってしまったことを実感するんです。寂しくなったなと。進学を機に出ていくことが多いけど、こちらに戻ってきても仕事がないんで結局、皆さん帰ってこない。」

 

そんな中、2年前にアンティークでは当時18歳だった山崎さんを新たに雇用しました。もしも、アンティークで雇用されなければこの町から出ていってしまったかもしれない。

「自分たちが店を成長させることで、山崎さんを雇うことができた。それは感慨深かったですね。」

山崎さんは取材した当日もバースデーケーキを届ける側として、シェフとともに働いていました。


お菓子を通じて、生産者さんを知って欲しい。


甲斐シェフと天野さんに共通しているのは、自分たちの仕事を通して地域を元気にしたいという想いです。

 

アンティークのお菓子に大分の魅力的な野菜や果物を使う。それを、県内外の方にも食べていただくことを通して、大分の素材の魅力に出会ってほしい。

 

特に伝えたいのは生産者ひとりひとりのこだわりや想い、そして魅力。

 

「アンティークで使っている素材の生産者さんって、すごく濃いんです。みんな想いが強い。でも生産者さんって、想いがあるけど、ものづくりに徹しているので、伝える機会もなければ、時間もなかったりする。そこでうちが商品として開発することで、生産者さんの想いや魅力をメッセージとして伝えられれば良いなと思っています。」

 

お菓子だからこそ、物語を伝えることができるかもしれない。


 

お菓子ならではの強みも感じているそうです。果物や野菜は生物なので、伝える準備をする間に旬が終わってしまうことが多々あります。お菓子という形でなら、ジャムにする、パウダーにする、ドライにするなど様々な工夫で旬を閉じ込めることができる。そしてお菓子とともに物語を伝えることだってできるのです。

 

「これで生産者さんや農園のお名前が、県内ないし県外に少しでも知れ渡ることになったら、とてもうれしい。そこですね。こういうお菓子を作ることのうれしさは。」

 

今回、TOKIWAプリーマのために、新たに開発した「地産地消 お米のマカロン」にも、生産者さんの想いのつまった果物、野菜が使われています。


ぜひ、ひとりひとりの生産者の物語と出会うような気持ちで、アンティークが手がけるお菓子の箱を開いていただければと思います。

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